立春/nonya
風に研がれた街の
痛い輪郭の端を
ポケットに手をつっこみながら
そそくさと歩く
研ぎ澄まされない
目と指先と頭は
言葉を紡ぐこともできずに
ただアイツを
待ち焦がれている
カフェの窓際の席で
エスプレッソのカップの縁に
腰掛けていたアイツを
待ち合わせに遅れたのに
笑顔で誤魔化そうとする彼女の髪に
しがみついていたアイツを
すれ違った自転車の
フレームとスポークの間で
はしゃぎ回っていたアイツを
薄氷が張った意識の水底で
朽ちかけた言の葉の裏側で
待ち焦がれてしまう
頼りない光の束の中に
こそばゆい粒子を見つけたら
それはアイツが旅立った証
今頃どこかの海の上を
青臭い命の匂いと
やるせない温もりを背負って
ほっつき歩いているのだろう
アイツは
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