象/月形半分子
1960年代、優しい目をしていたのは一頭の象だけだった。
一頭の象が、ある日、小さな北国の町の動物園にやってきた
小さな町では、酔っ払いも、海も、ひまわりも、貧富も、差別も、母さんも、意地悪な友達も、花火も、げんこつも、いつも泥道の向こう。そこに象が、加わった。それは町の一大ニュースだった。
動物園では、北国のフラミンゴや北国の駱駝を見下ろして
大きな空をオジロワシが舞っていた
まだ幼稚園児だった妹の手をつないで、500円札を握りしめて、
私が、生まれてはじめて象に会ったのは小学一年の時。
象の檻の簡素なコンクリートを大勢の人間が囲んでいる
まるで聖者が町にやって来たかのよ
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