【HHM参加作品】「荒地」/すみたに
 
香だけが香る
>私たちの稲の家は
>荒地の春に燃やされて
>私たちは駆けていく
>どこまでも遠くへ

 確かにあったはずの、そして喪われた場所としての荒地は回想されることによって、荒地としての景観を喪い、実りない荒地を歩く記憶の所有者は、荒地と別れを告げることとなる。秩序なき場所の不毛のなかを漂う自己の足跡がそのまま残りながら、その足跡は秩序を作り出す痕跡にすぎなくなる。ただしそれはあくまで痕跡であって、ただ残った者、おかれたもの。深まらないもの。それでもそんな出来い合いの荒地に残される自分の存在を確かめる。春、生命の火が灯ると、乾いた荒地は燃やはじめ、灰ばかり
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