ヒュプノスの眠り/凪 ちひろ
 

忘れることもできないまま

女の子は いつの間にか
冷たい仮面をかぶり
氷の上を歩くように
凍えた体を抱えていた

どうしても愛せない自分を責め
言葉の刃は突き刺さったまま


立ち止まり 立ち止まり
そのまま 座り込んで
息もたえだえに
ついに横たわった

優しい歌が 遠くから聞こえる
何もかもを失った わけではないと知っていた
けれども その体を
動かすことができなかった



「春になれば 氷は溶ける
 いつか刺さった刃の傷も
 癒える日が来るだろう
 それまでそこでお眠りなさい」


ヒュプノスの歌
美しい花園の中
眠る女の子
冷たい氷が溶けるまで
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