アンテーゼという娘の物語/凪 ちひろ
町の人は言った
「女の子は宝石が好きなのよ」
今日も行商人の男が
小さな宝石を売りに来る
娘たちは彼を囲み
一つ一つ宝石を手に取って
ため息をつきながら
金持ちが買って行くのを見る
「おまえたちも いつかあれが
買えるように」
大人たちは 娘の髪を梳き
そのうち化粧を施した
金持ちの息子が気に入るように
アンテーゼは宝石に興味はなかった
「そんなものわたしはいらないの」
でも周りの大人は口々に
「女の子は宝石が好きなのよ」
ある朝アンテーゼは森の中へ
そのまま帰って来なかった
アンテーゼが辿り着いたのは
深い 深い ほら
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