銭湯/三田九郎
 
気泡が足下から
ひとつ またひとつ

空は青く 高く
吐息は湯気に消え

あれも
これも
思うに任せず

思案は
湯船に溶け

答えなんか出ないまま
日付だけが変わっていく

首を回し
肩に手を当て
もういちど息を吐く

目を閉じると
聞こえてくる 歴史

良き日も 望まぬ日
過ちの日にも
生きた この からだ

癒えない痛みは
歩んできた道の確かさ

気泡が足下から
ひとつ またひとつ

ぬくもりが
芯まで迫り来る

痛みも醜さも
許されていくようだ

ここ いつもの銭湯で
たまにからだの声を聞き

答えなんか出ない日々に また
繰り出していく
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