器/三田九郎
 
わたし

その器から

人間があふれ出す

あとになっては

思い出せもしないことで

ふいに気持ちが弾け

嗚咽する夜がある

灰色の日常に染められ

瞳も心も淀んだわたし

その器から

苦しみ

悲しみ

深い 鋭い 原色の感情

わたしを背負うわたしの悲鳴

人間があふれ出す

生きる

その言葉が遠い

いつものわたし

けれども

その器には

確かに人間が

わたしが

生きている

生きているのだ
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