詩2編/月形半分子
 
薬缶の口から湯気ポッポ


ノドグロの口から日本海の匂いがまだ消えないうちにと
料亭の女将の口から少し早めの夜が始まる
けれど日本の財布の口からはわずかな小銭しかでない
だからみんな、みんな、みんな
みんなの薬缶の口から湯気ポッポ
カップヌードルの蓋の上で今日も三分待つよ

そうして夜更けに、畑に並ぶ白菜の口から霜がおりはじめ
その明け方に女将が帰り道に口からプカリと煙草をふかす
そうして真っ白い霜のなか、みんなの朝が始まれば
みんなの薬缶の口から湯気ポッポ
みんなみんなポッポッとあくびする
なんかいいことないかしら、と独りの口がつぶいた

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