贈るほどでもない言葉/佐野権太
ときには
無関心に追い抜いてゆくものたちに
孤独や
やみくもな焦燥を感じ
我が身の不条理を嘆き
醜い憎悪に満ちた叫びを
堪えることもあるだろう
それが、詩だ
ふいに途切れた旋律の先に
あるいは
つむがれた言葉の断片に
なつかしい匂いや
ぬくもりを感じて
指先を伸ばすときもあるだろう
それも、詩だ
空はすべての雲を引き連れて
大きく流れていく
そう
おまえがとんぼを追いかけた
あの頃と
何も変わらない
いつかおまえが
こうした書きものをみつけて
わたしの心映えに触れることが
あるかもしれない
くだらない、と
嗤ってくれていい
雨やどりの後に
水たまりを踏む
おまえの足裏から
零れた色しずくが
美しいものであれば
それでいい
あの
ハンガーの
白と黒のワンピースを着た
おまえの顔と向かい合ったら
言葉につまりそうだから
今のうちに長々と書いた
つまり
卒業、おめでとう
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