贈るほどでもない言葉/佐野権太
おまえが将来
大人になれば
ときには重い困難を抱えて
たぐる糸もなく
色を失った世界に
途方にくれることもあるだろう
そんなとき
思いがけず差し伸べられる
手のひら
それが、ありがとうだ
おまえが将来
大人になれば
人を傷つけ
あるいは傷つけられ
何もかもが
おそろしいように思えて
すべてを鋭利に
削ぎ落としくたくなることもあるだろう
そんなとき
思い出してほしい
おまえを生み、育てあげたと
自負できるものが
いるということを
その意味は
いつかおまえが
散りいそぐ春とか
流れゆく水のうつろいに
心をとめる頃に
理解すればいい
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