ぼくとつ/田園
ぼくとつ
一人のぼくとつを見た
五十手前のぼくとつは
頭を低く低く下げ
ただ芸を身に付けようと
足掻いておられたもくもくと
「芸を極めるか
家族を愛するか」
どちらかを取れと言われていた
それはひどく厳しい男だった
私は芸が無い
家族も無い
だからぼくとつの想いは分からない
だが男はそう言い放ち
ぼくとつは男の手を取り泣いていた
その必死の意味を
笑っても泣いても
おそらくいけない
ぼくとつはただ真実一路
極めんと欲しているのだから
ただ個人として願う
私も ぼくとつのようでありたいと
だがら私は
深く頭を下げ続ける
人を見くびれないぼくとつとして
必死を知りたしと願う
幼き
ぼくとつとして
戻る 編 削 Point(11)