叫び/岸辺/綾野蒼希
 
その叫びは
のどもとを切り裂かれても
大地を揺るがしつづけた
橋の上の
絵巻の中の真理にも似て非なる
声を失った叫びよ
先端に棲みついた幻想が
路傍の杖を振りまわし
あらゆる影のかたちを追求しても
成熟した木陰は戻ってこない

   *

黒縁の、丸い眼鏡をかけた鳥が、
沈黙と仲たがいした、うるさい知性の、
いつもの小言を、辛抱強く、聞いている。
そういう世界で、叫びは叫び、
岸辺は岸辺でありつづけ――
ああ、誰か花束を思いきり葬り去れ!

   *

その岸辺は
ようやく自分が岸辺であることに
静かに静かに疑念を抱く
かたわらのさざなみに訊ねても
言葉を知らないものの反応は寛容だ
森の苦笑いは葉擦れにごまかされ
定義とはほど遠い記憶を秘めたしらべ
それがたちまち岸辺の関節を取り外す
魚のすべてが死魚に他ならない
山小屋はおのれの才能の限界を知る
馥郁たる香りを叩き割る
無音の日々が
やがて小さな叫びと共振したとき
叫びは叫びの本質を忘れてしまうのだ

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