清冽の順守という暗黙/綾野蒼希
 
とめたものを来月までに提出しなければならない。
四、問題なのはその文書を一体どこに持っていけばいいのか判らないということ。
五、もし規則に反してしまうと――
違反者は罵詈雑言のように蔓延っている扉の中で耳のみ生かされたまま、萎びた花弁に変えられたり味覚を失ったりするのである。また、鴫の内部に隠されてしまう可能性もないわけではない。
「鴫A」「鴫B」「鴫C」「鴫D」「鴫E」「鴫F」………………………………………………………………………………
故に、この暮れなずむ街に同化している者は鴫の観察を、そしてその報告を義務づけられている。ぼくたち住人は殆ど無自覚のうちにそれを行い、つましく生活を成り立たせているのである。たまに昔の記憶が――自分はかつて何者だったかという過去の映像が蘇ってくることがあった。カーテンのドレープに締めつけられるような底なしの恐怖感に堪えなければならないのは、そういう時だった。

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