アンセリウム/すみたに
 

時間を突き離したわたしはすでに、
わたしであることに疲れていた。
気球のように烏につつかれ瀬戸際に顔を打つ恐怖に、
疲れていた。そうでなくともボイラーは切れそうだった。

それからは無量に流動していく物資に還元されていくのを
監視することに、疲れてしまった
ファイバー繊維の極めて細い管の中を通り抜けていく、
笑顔が印の箱。開封するのはわたしでは無理だ。

金融市場で取引されて、密輸され
売買されていく、広大無辺の闇砂漠の土地、
白骨死骸とともに転がる、衛星の墜落残骸が、
自分だけの孤独をNASAへ送る。

赤いパンからダイヤモンドまでベッドされ、
すべてのトランプが切られたまま
放棄された試合に残されるのだ、永遠なる循環行為として。
わたしはだから、わたしであることに疲れている。

それでも海嘯の響くあばら小屋の街で
何も語らずに海豹革のコートを掛けてくれる
伏し目がちなあなたがいるから、柔らかな掌で飛ぶ大輪の蝶、
アンセリウムが愛おしくて、わたしはまだ生きている。

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