光について/木屋 亞万
名前は親からの最初の贈り物
光と書いてヒカル
その名前を彼女はあまり好きではなかった
「光は周囲を照らすけれど
光が照らされることはないの
虚しい人生だと思わない?」
いつも甘いタバコを吸って
甘ったるいコーヒーと紅茶を愛し
胸ポケットにはチョコレート
いつも茶色い染みがあった
「私の乳首は茶色くて
ほんのりカカオの味がする
舐めてみる?」
髪はいつも傷んでいて
カメラを向けると顔を背ける
ひび割れたような笑い方をして
声はすこし枯れていた
文庫本のカバーを外し
コートのポッケに入れている
座るたびに本を開いて
すぐに居眠りしてしまう
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