おおきな樽の小部屋にて/すみたに
 
付く 地図はもう古すぎると
 
  街、記憶を頼りに行けば行くほど
  なぜかそこは記憶の通りになっていく
  世界はどこへ消えてしまったの
  街は記憶の奥底へと半分沈みこんでいた

  もうどこも求められる地点はない……
  ――どこへ行くにも虚ろのなか……
  もうどこも目指さず どこへも行こう
  ――どこへ行こうにもそれは虚しい
  
  刻々と変転する壁の中に人影が失せた 
吹き荒れるあま煙が消してしまった 
けれども唐突に浮かぶ遺跡の影 
その圧倒されるとこしえのちからづよさ

  蝋燭ゆらぎ 影のばす小さな椅子一つ
  蝙蝠が天上におりたつ 虫が窓枠に集る 
悦びのかもされる大きな樽が積まれている小部屋 
  そうだ――きっと、そこにあなたは立って
 
わたしを待ってくれている 
 この街は迷ったが最後
  けれど――あなたと約束したから 
わたしはこの街で迷うことがなかったのだ

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