巣立ち/三田九郎
僕という生命体に
物質が凝縮されているうちに
言いたいことを言ってしまえ
恥じらいと
体裁を
かなぐりすてて
奥底から飛び出す ことば
ぜいたくものの代わり
顰蹙なら買い占めてしまえ
魂に操られている
僕
その生命体のすることに
意志など混じっているものか
喜怒哀楽を
選んでしているわけではない
睡魔が
生命体と僕を切り離す
たったひとつの救い
スイッチを切り
数時間
の彼岸を手渡す
いつしか
意識のうごめきが
生命体を呼び覚まし
ほんの少し思慮し
まぶたを開き
眼球が世界をつかまえ
とたん
世界が生命体が
魂が感情が
僕
をつかまえ
時の経つごとに
世界にうずもれゆく
言いたいことを言ってしまえ
そうして世界を破ってしまえ
世間の檻から
飛び出してしまえ
生命体をそそのかして
もう、
飛び立つのだ
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