浮かばれぬ/すみたに
 

粛然とした住宅外。
崩れた塀の蔭、
放置された飲みさしの瓶に浮いた虫。

赤レンガ倉庫と並ぶ
コンクリート工場で夢見た、
幼児の時間感覚。

そろそろ限界だったわたし
今ではどろどろかさかさの
屑となっている。

子供たちは臭いにつられてきた、
蠅のように、
小枝ブンブンいわせて。

寄っていじくりまわされた猫が、
今度は小便ひっかけてきた……
けれども洗濯する気はなかった。

そんな屑だから悪魔がやって来た。

襟立ての外套を着て署名を求める。
名前をもらっていないわたしは
そんなものないと言った。

悪魔はパイプに火を入れ、
「思い出せ」と迫った。
やがて銀細工のナイフを弄び始める。

しかし過って
ナイフは爪先に落とされた。
悪魔の足は土粘土のようだった。

ぱっと噴き出る鮮血、凶兆。
高度6600フィートでスペースシャトルが空中分解、
標高1281メートルでヴェスヴィオ火山が噴火した。


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