流刑/綾野蒼希
去られた博物館をめぐっていたい
どこに行ってもやはり何も置かれておらず
忘れ去られているままの
そして私はこれからあらゆる方角の地平線を
あらゆる方角の水平線を
嫉妬まじりの眼差しで見つめるつもりだった
姉から奪ったものは二つ
死んだ母の入れ歯と
夫であるピアノ調律師の肉体
歴史がゆっくりと瞼を閉じたとき
最後に目にしたものは黒鍵でも白鍵でもない
この私だった
バッグを線路に投げ捨てると
猫が驚いて向こうの草地へ飛び込んだ
二両編成の列車がすべり込んできたとたん
子どものころに夢見たものが
少しずつ少しずつ 消えて いっ て――
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