白いボールのファンタジー/有無谷六次元
 
心臓


目覚めると打撃投手に囲まれていたので突然冬になる街


「鈍色のシーラカンスは見えますか?」「ショートの定位置からは見えない。」


マウンドを掘り返したらありました かなしい色のピエロのお面の


ホームラン セックス ホームラン セックス おひつの ごはんを しゃもじで たべる


雷鳴とバックホームの遠投が飛び越す紫色の山脈


「こんばんは、黄泉は闇だと聞きました。レフトがフライをまだ追っています。」


セーフティバント 乾いた吐瀉物 カウボーイハットをかぶりなおす


波が消す浜辺のネクストバッターズサークル 残った影は右打ち


にがい雨 家から出てこないみみず 見えない手枷 牽制死の午後


八回の表 わたしの乳房を喰いちぎる 呪詛を孕んで死んだサヨリが


上空で回る巨大な方位磁針 首を傾げる走塁コーチ


重いディレイに沈められた卵黄とスイッチトスと秒針の靴


箒星が見えたらスコアボードの片隅に「×」を書き込む人たち
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