裏側/望月 ゆき
 
{引用=
洗濯を終えたあとの洗濯槽に、頭をつっこんで
耳をすます
見えなくなったものを見に行くために
目を閉じる
という所作を、毎朝の日課にしている


庭で、貝殻が咲いている
耳にあてると、途端に 世界がさみしさを
吐露しはじめる  
洗濯槽の壁の、無数の穴に隠れて
わたしはそれをやりすごす


洞窟は空白に満ちていて
抜けるまでのあいだ、たったひとつの言葉も見つけられなかった
出口には電柱が、どこまでも電柱のふりをして
無骨に佇んでいる
あしもとには
死んだ犬が埋められている


朝食のテエブルで、ぶどうジュースがこぼれて
わたしは、ひどく泣いた
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