供述によるとお前は……/木屋 亞万
供述によるとお前は
うつくしい女と出会った
彼女は駅の階段でうずくまっていた
いくら声をかけても反応がなく
そっと肩を叩いたとき
顔をあげた女と目があった
お前はこれがほんとうの恋なのかと思い知った
女とであった喜びすなわち嬉しさが
幸福として心の底から満ち溢れ
同時にそれはお前の平穏を凄まじい勢いで脅かした
供述によるとお前は
彼女を連れて近くの寂れた喫茶店に入り
一言も話すことなくコーヒーを飲んだ
そして彼女が目を離している隙に
コーヒーにウィスキーを数滴入れた
お前は外套のポケットにウィスキーの瓶を忍ばせるような落伍者だ
彼女はそのコーヒーを何も言わずに飲
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