マリコ/サカナ
遠い昔
父さんはマネキン
母さんはトルソ
小さかった僕は
マリコ、と
そう呼んでいた
一体のボディがあった
スタンドに立てられた彼女は
母親のくたびれたドレスを着せられて
部屋の隅で
ひっそりと立っているだけの
マリコ
うちには
マネキン
と酒を飲む父親も
トルソ
をせっせと着せ替えてやる母親も
居なかったものだから
いつでも窓を背に
寂しそうに佇んで
マリコ、と呼ぶと彼女
淡いブラウンの彼女
顔のない彼女
泣きもしなければ
笑いもしなかった
模範だなんて
知らなかったものだから
うっすらとした埃さえ
上品でしたマリコ
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