ほんものを見つけるために/綾野蒼希
らわかるのだけれど――けれど、
無意識のぼくを責められない。
心配性の母さんは、こう言う。
これまでに一度もほんものを所有した
ということがないのなら、その発見こそが
ほんものなのかもしれないね、と――ああ!
ぼくは、母さんの言葉を聞くたびに
たまらなくなってしまう。だって、
ほんものを知らないひとに
ほんものだなんて言ってほしくないのだ。
ぼくは、たとえ心で思っても
絶対に口には出さない、と決めている。
口にした瞬間、人見知りのほんものは
裸足で理性の外へと行ってしまうだろう。
いつだったか、面会のときに、
ほんものを失った父さんがこう言った。
おまえの求めているものは必ず
おまえのどこかにあるから、
静かにそっと、探してやるのだよ、と。
ぼくはそこでもまた
――ほんものを手に入れるために――
にせものに染まるための解答を得たのだ。
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