海老坂/綾野蒼希
 
その急坂には海老が撒かれている
富山湾沿岸から脱獄した大量の白海老は
植物油にまみれ
砂糖 食塩 黒胡椒に寄生され
取り返しのつかぬ形状で撒かれている
絶唱さえも奪われたまま

その坂は もともと死体の山だった
死体はもっぱら海老にしか――
とりわけ白海老にしか食指が動かぬようで
勝手が違った
坂にするなど 誰が言い出したのか
だから私は海老を撒かなければならない
そこに 死体どもの舌の上に

いつだったろう
どす黒く 唾液に満ちた味覚の中へ
かつお さば ほたてを含有した
魚介エキスパウダーを振りかけたことがある
そのとき
彼らから白海老になれと命じられた
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