その日/nonya
脳に転移していますね
ある日
余韻の残らない口調で担当医は言った
丁寧に覚悟を積み上げてきたはずなのに
質問をする私の声は上ずっていた
ひとつひとつ言葉を置くように説明する
担当医の声は次第に遠ざかり
冷たい光に浮かぶ他人事のような透視図を
私はただぼんやり見ていた
いつだってそうだった
地元の病院から大学病院に転院したその日に
母がいきなり癌の告知をされた時も
その後の放射線治療でごっそり抜け落ちた髪を
母が泣きながら拾い集めていた時も
私はただぼんやり見ていた
僅かばかりの質量のない言葉を
添えたような気もするが
私はただぼんやり見
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