手錠とその因果/MOJO
 
 いつもと変らぬ朝だった。私はそのつもりでいた。
 毎朝目覚まし時計が鳴る数分前に目を覚ます。その直前まではたいてい夢のなかにいる。例えば犯罪を犯して迷宮に逃げ込み、逃げ回ったあげく精根尽き果て目覚めれた朝は、ベッドの周りの慣れ親しんだ空間に安堵する。カーテンの合わせ目から漏れる朝の光に照らされた壁際のテレビのブラウン管。その表面に付着した埃。ベッドの脇に散乱する雑誌の表紙で微笑む少女。そういうものが悪夢から生還した私をしみじみとした心持ちにさせる。
 しかしその朝、私は目覚めるまで都心に建つ瀟洒な造りの集合住宅の一室にいた。広いリビングの窓を開け放ち、ベランダに立って眼下に広がる公園の緑を眺
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