世界を問い直すためのエスキース(習作)1/N.K.
 
一世代前の良い思い出を追って
家族で映画を見に行った日
子ども向けの映画の中では
キャラクターたちが絵本の世界へ行ったから
ママは世界に行ったと娘が言い出す
帰る途中に買い物をする妻を待って
スタンドで娘とジュースを飲んでいるときに

たぶん今日の夕御飯のおかずの世界に
ママは行ったんだよと答えて
世界がそんなに多元なものか
と思いかけて
少なくとも目に映る総菜売り場の
混雑の分だけ世界との関わり方はありそうだ
ということに思い至る

行き交う多様な個人が選んだ
かけがえのない個々の世界が行き交う
空間に映るものだけではなく
過ごしてきた時間を纏わせながら

それぞれの時間を吸い寄せながら
目の前を雑踏のように交差する
尊重されるべき多元性の世界は
人々の目にどう映っているのだろうか

安心させようとして
ママはすぐ戻って来るよと話しかけた
娘には娘の世界ができつつあると
改めて娘の顔を覗き込んで思い至った
そう言えば今日は
娘の乳歯が初めて一本抜けた日
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