傘のない夜に/三田九郎
 
ラッシュアワー

スクランブル交差点

運ばれては行き交う無言の人々

傘がないから

雨に濡れた

言葉を失うと

僕らは何を失うだろう

寄り添い

抱き合い

労わり合うのに

修辞はいらない

愛に

説明も弁解もいらない

いったい

言葉にしなければならないことに

なにがあるっていうんだ

大地も

空も

この街も

言葉なく

偽りなく

ここにある

人間が

言葉でものするとき

偽りが微量混濁する

絶壁が屹立し

思いと

言葉は

近似までしかたどり着けない
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