一冊のノート/永乃ゆち
私の人生を一冊のノートに綴れば
なんて薄っぺらいものになるだろう。
あなたと出会った事も
時折情熱を感じただけと言ってしまえば
それで事足りる。
泣いた事も笑った事も
誰もが経験するもので
私だけの唯一無二な存在など
なかったのではないか。
決して叶わぬ恋をした。
道に外れた恋をした。
文字に書き表すととても扁平で単純だ。
けれど。
けれど最後のページには
こう書かれているかもしれない。
(本当はただ純粋に愛したかっただけ)
一生誰にも見せないものとして。
一生他の誰も愛さないものとして。
そのノートを燃やしてもなお残る思い出と言う
厄介な湖の中で
私は独り
そっと眠ろう。
二度と生まれ変われないように。
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