九月の朝/水瀬游
木枯らしがふき始めた
九月の朝は
人ひとりいなくなってしまった静けさに包まれて
なんだかひっそりとしている
道を行く人はまばらで
自転車は そっと流れるカヌーのよう
普段騒がしい自動車のエンジンでさえ
誰かに気を使っているかのように
どことなく控えめだ
黙って空を見つめる鳥につられ
顔を上げると
空が 遠ざかるように高く離れていくのが見えた
音も立てず
黙って
ぐんぐんと
まるで旅に出るように
別れの挨拶一つもなく
私一人 残して
ごう と不意にふいた風に
思わず目をつぶるが
その風もついにふき過ぎると
秋は いっそうひそやかになった気がした
木枯らしがふき始めた
悼むような九月の朝は
人ひとりいなくなってしまった静けさに包まれて
なんだか酷く ひっそりとしている
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