ツタンカーメン展と娘/夏美かをる
よりも大きな数があることもまだ知らない娘には
三千三百年もの間 ただひっそりと存在し続けてきた
ファラオの遺品達が語りかけるものの重みは受け止められない
最後の展示はツタンカーメン王のミイラのレプリカだった
「これは本物?」
「ううん、違うよ。偽物だって」
「偽物なんだ! ああ、よかった!」
そう言うや否や売店に消えてゆく後ろ姿
?何か小さいものを一つだけ選びなさい?との命を真剣に受け止め
散々迷った末に彼女がそこで買ったものは
アヌビスを象った二ドル五十セントのトゥースボックス
その晩
日本語学校の絵日記の宿題をさせたら
彼女はそのトゥースボック
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