メビウス/寒雪
 
浮き足立った歩道から
急ぎ足で流れていく
目映いテールライトの
真っ赤な花束を見ている
視野の真ん中に
ぼんやりと
あの日のきみが
スライド写真みたいに


寄せては返す
きみとぼくの漣
きみはいつでも
微笑んだままで
穴が開くくらい見てたら
はっきりとした
しっかりとした
ほんとに黒くぽっかりと
くり貫いた満月のような
眼球を真似た穴が


影も見えない暗闇で
必死に手を伸ばしてみる
時の流れに身を任せて
いくつもの光と影の筋を
追いかけてきた
だけど握り締めた手の平に
残されたのは
いつでもぼくの体液


同じ事を
いつでもいつでも
繰り返し
繋ぎ合わせたメビウス
それでも
その輪から
飛び出すことも出来ず
気が付くたび
光の行く先を見つめている

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