過ち/三田九郎
 
生きているといろいろ苦痛だ

生きることはほぼ苦痛だ

苦痛以外のことどもは

いっときの過ちだ

一文字一文字

の組み立てを試行錯誤しているとき

たとえば「の」を「一文字」の下にするのか

「組み立て」の上にするのか悩んでいるとき

この戯れの中にぼくの内が溺れているほんのいっとき

生存の苦痛

がぼくから放たれていく

書くことの、この、いっときの過ちは

過ちのうちでも特別に甘美で、罪深い

ただぼくの内の揺らぎと

揺らぎが鎮まってゆくさまとに

生存の苦痛がいっとき

放たれていく
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