キャラメルマリア/鯉
カウンターで、痰が絡まって、「キャラメルマキアートください」がひっついてキャラメルマリアが顔を出した。舌打ちは案外たやすい、三頭身のキャラクターと店員の笑わない目、おれの小さい欲望と自尊心。上を向くと知らない横文字が公衆便所の漏れた糞みたく溢れ返っている店内に向かって、下品なシャンデリアがきらめいている。たばこを吸おうと思ったら全席禁煙の張り紙が見えたから、手元にあった本のタイトルを確かめるふりをしながら店を出た。開けたとたん戦争状態のような交通量と、塹壕からブチ撒けられた死人の群れと、それと握ったキャラメル色のマリア。本は店に忘れてきた。消えたくなる夕方だった。携帯を取り出して、電話帳を確認し
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