活きた魚の眼/佐々木青
 
カウンターのまえに生簀がある
生簀のうしろで二人の板前が
包丁を手にして僕たちの注文を待っている

弟と〈活定食〉というものを頼んだら
すかさず板前が網を持ち出して
生簀から魚を二匹すくった

板前は華麗な手つきで
あばれる魚をさばいていく
肝が棄てられ
身だけが残る
それらは活造りとなり
僕たちの目の前に運ばれた

魚はピクピクと鰓をふるわせる
生命が絶たれたばかりの残響に
魚の神経が目覚め
活きた眼が
僕たちをじっと見つめる

それから
たしかに僕たちは
「いただきます」と魚に向かって言った
(これが食事なのだ)
(これが食事なのだ)


[次のページ]
戻る   Point(5)