たいせつな蜘蛛を殺した日/平井容子
 
ロック/


肉のなかにあるキッチンで
いちじくを割る
どちらがわにもいなくなる
感覚を否定した濡れ手を重ねて
象ったイーコール

それは合掌

あったことはいちどもなかった
ただ
ただ自由だった




/アンロック


首から上はただの空
低気圧の底を
つばめより早くかすめていく
雨が降りそうと
クリスタルがいう

物にやどる疲労はうつくしく
寝顔はかなしかった

永遠を泳いでいくように
在りもしない手足がまだ動いている
反射だけの世界が
揺らぎながら暮れていく



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