西海岸/津久井駒彦
 
上げると 大きく揺れている
波の心拍を気にするそぶりもなく ゆたゆたと揺れている
突如として三日月があらわれる 洗われる 白い波に ゆたゆたと

過去にかの絵描きもこの海を見たときく
油彩をどこか遠い場所で見た
そのときもあの白い波が画家のたましいを研磨したのだな
たましいが欲しかった 洗えるたましいが

意味なし 意味なし 

水平線も その上をぼうっと渡る月も みな少しずつ遠かった
近くには海潮と岩場と 生温かい人間のからだがあった
吐く息と独り言の中にだけたましいがあって
他は等しくあやふやだった


ひとの明りの下に戻って洗濯をした
乾燥機は便利だ
意味がある
たましいもあるかもしれない

空気は澄んで 海が迫ってきそうだと
ひとり期待していた
一も二もなく 百も二百もない
あやふやな心持ちのまま浅く眠った
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