落日/三田九郎
君がなにかTVの話をしている
脳に注がれる曖昧でぬるい声色
もっともらしいことを言うので
もっともらしく首肯してみせる
君の紅茶がおいしいのは不変だ
いつもの紅茶が口腔を湿らせる
ふいに世界が色彩を失っていく
台詞が感情から遠ざかっていく
君との現場が遠景になっていく
二口目が舌先から僕を浸食して
意識が少しだけ現場に回帰する
なにか言うのでまたなにか言う
なにか言うのでまたなにか言う
溜息がまたたくまに重たくなる
人の言うことは絶望的に不変だ
ひとりぼっちの時間以上の孤独
飲む仕草でティーカップに接吻
二人の陽はもう遠く沈んでいる
戻る 編 削 Point(1)