傘/三田九郎
いつも同じにしてるのに
甘い日と
苦い日
傘を持っていっても
いかなくても
はずれそうな空
一杯だって
同じ珈琲はないんです
しても
しなくても
いいようなことばかり
薄い風が
上辺ばかりを過ぎ
溜め息が溶けていく
あれ、
砂糖がない、
さっきまで、
確かに、
ここに、
街は今日も
あるようで
ないようなものばかりで満たされ
それでいて空は遠く
誰もが空々しく
あ、そこ、
床に落ちちゃってます、
黒い床に散らばる
白い砂漠
みるみる溶け出し
過去のほうへと染み込んでゆく
会っても
会わなくてもいいはずなのに
運命が
待ち受けているふりをする
マスター、
ごめん、
今度お詫びするから、
ドアにかけられた鈴が鳴り
外へ出ると雨が降り出し
今日は傘を持っていた
通り雨に打たれる音
空は遠い
戻る 編 削 Point(5)