夓/木屋 亞万
ふりかえると夏がいた
透きとおる肌
後ろの道が透けて見えた
ほほえむ顔がうつむいて
夕陽から漂う風を浴びた横顔は
もう夏ではなかった
私の知る夏は消えていく
知らない存在に変わってしまう
朝になってまたいつもの夏になっても
少しずつ秋に移ろってしまうのだ
雲が膨らみすぎて立てなくなり
横たわってなお醜悪な成長を続ける
その中で熱風と冷気が踊り狂っても
夏を引き止めることはできない
その存在をすんなり次へ譲ってしまう
夏は恋人だった
秋になればもう母の顔
私のほうを見ていない
その眼は産み育てる親の光に満ちていく
凍てつく風がその身体を再び変えてしまって
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