久しぶりに短い文章。/小池房枝
のまま片手でチャージは出来ず、駅員のいる出口で不足料金を払って出たが、駅員も私の手の甲のもぞもぞについてはノーコメント。セミなんか可でも不可でもなく、きっともっと具体的にあれこれやらかす客が毎日絶えないに違いないのだろう。
駅前ロータリーはケヤキの広場だ。タクシー乗り場近くの木の一本に今度こそ手からはがして止まらせようとすると、風の匂いがわかったのか、じじじっと飛び立ち飛行距離約1m未満。その木の幹のすぐ裏側、目の高さにとまった。逃げたおおせたつもりなのか、口吻突き刺して来たり飛んだりその程度の余力はあったくせに、何故こいつは乗換駅にいたのだろうか。急行に乗りたかったのか。
乗り込んだタクシーの運ちゃんに初めて声をかけられた。さっきのセミは良かったね。それでなくても寿命短いんだろうから。セミとひとときをともに過ごして、初めてセミについて話しかけて来たひとだった。
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