ココアの香り/うたひと
 
僕は返答に困るばかりで頷いているばかり
僕は友達が少ないけど君は友達が多いんだから
相談相手は僕じゃなくてもっと気の利いた事の言う奴とか
面白い事言って君を笑わせてくれる奴の方が良いんじゃないかって思っていると
白昼夢のように君の事を思い出している

怒った時右側の薄い眉をつり上げる癖は今でも変わらないんだね
めったに着けないピアスをつけたとき君の耳に目が釘付けになったのは
電車で居眠りして君が寄りかかってきたとき鼓動が早まったのは
初雪が降った朝
乾いた唇に急いでリップを塗っている君の姿を見つめていたのは
女を感じなかった君に女らしさを感じてしまったから
もう友達でいることが苦痛になったから
香水を付けるなんて思ってもみなかったけど
今日は柑橘系の柔らかい香りがしている

いつの日だったんだろう
寒い朝、両手でカップを持ちながら一緒にココアを飲んだけど
その時のココアの香りを君は忘れていても僕は今でも覚えているんだ


戻る   Point(1)