昨日がえりの釣り堀/朧月
 
釣り堀に釣り糸をたらす
濁った水面をぼんやりながめる
浮きが ぴくぴくと動き
ぷくん と沈む
のろのろとひく

たらりと針だけが透明な糸についている

ばしゃん
音がするほうに
ばたばたと鯉がつられている

ぎろぎろとひかった肌を
よこたわらせている

私はぼんやりと濁った水面にむきなおる
昨日の自分 一昨日の自分
そのまえ そのまえ の
私をつる
つかまえどころのない私を

ぎろぎろとした鯉はどこにいる
私が私からぬけだして
昨日も一昨日も そのまえも
一瞬にしてかけぬけてどこかへ消えていった

すっかり軽くなった私は
濁った水面をもう一度みなおして
いるはずの鯉に心で礼をいった
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