祈り 〜八月生まれの母へ〜/銀猫
 
おかあさん
おかあさーん


わたしを産んだ日は
晴れていたと聞きました
満開のサクラ
初夏のような西陽のなかで
汗をかきながら
わたしを産み落としたと。
産院の名前を覚えていますか
あの、お寺の裏手に
今も建っているようです

おかあさん
先月も先週も
そして、ついさっきも
わたしに通帳の在りかを尋ねたこと
わたしが今
何処に住んでいるのかと
何度も(何度も繰り返し)
電話番号をメモしては失くし・・・・・
そんなことは
忘れていいのです


そして
もっと忘れて欲しいのは
あなたがまだ少女だった頃に
サイレンに怯えた日々や
お腹が空いて
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