まえのばちゃん/salco
 
おさむとかなめの家の後ろには
同じ造りの平家があって
銀髪をひっつめた細い老婆が住んでいた
地味なワンピースにいつも前かけをして
家作の花をかわいがり
ピンクと一対の青いスイートピーを息子と呼ぶ
不思議な心のおばあさんは何故か
通りに対して後ろなのに
「まえの(お)ばちゃん」と呼ばれていた
女の子達はそっちへ流れた
狭い庭は花々が咲き乱れ
木蓮の大きな肉厚の花を拾えるのも嬉しく
乳白の女王様に恭しく見入ったものだ

おさむとかなめが引っ越してほどなく
まえのばちゃんの家が埋まっていた
もともと道より低い所で
前の更地が盛土で路面の高さにされ
家の上半分しか見えな
[次のページ]
戻る   Point(7)