雑草の花・鯨の皮膚/高濱
梨の実が旧い館の椅子の上に置いてある。
静物画を描く青年がブロンズ製の髪の毛を流しながら、
河のマネキンを浚い取る掃除夫に腕を授け渡す。
それは広間へと続く廊下の壁掛時計に引っ掛かっていたもので、
機械仕掛の神の指先にあまりに似ていたものだから、躊躇しながら掴んだことを、彼は憶えてはいない。
時折その館では七不思議の一端が、
誘い掛ける蒼白い馬の幻覚として目撃されては恐怖を呼び起こした。
その館も今は無い。絨毯爆撃を逃れることができなかったのだ。郊外の森の中だというのに。
焼夷弾は忽ち燃え広がり、炎の髪した婦人の絶叫が私室のカーテンに燃え移り、
黒焦げた死体は萎縮した胚の
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