蛙/きや
幸福なのだ。自らの立場をよく理解している。
私が「地べたの天国」に魅了されるまで、そう時間はかからなかった。
湿った泥にうずくまる蛙は美しい。五本脚の蛙は美しい。ヤマカガシの逆歯にやられた蛙、子供達に釣られて干からびた蛙、そんな彼の帰りを待つ恋人は本当に美しいのだ。
彼等は人間よりもずっとずっと綺麗だ。穢れを知らない無垢な命なのだ。
そんな彼等の全てがこの世から消えてもう30年になる。川に行けども蛙を見かけることはなくなってしまった。地べたに生きる天国達はとうとう絶滅したのだ。
私の今まで内に秘めてきた全ても、無駄なものとなってしまった。この感情をどうすることもできないので、私もいずれ彼等のもとへ旅立とうと思う。
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