怪談 をんなふくら萩之変/salco
耳鳴りのような白日が暮れ
まだしも今夜は
築地渡りの湿った風が吹く
朝からの汗で油染んだような
背中の生地のこわばりが不愉快で
ストッキングは梅雨明けから
本当はスカートも履きたくない
早く帰ってシャワーを浴びたく
クーラーの下、素肌に化粧水を叩きたく
交差点を渡って右に折れ
ビルの間の一通路を左に曲がり
リストランテのある路地へ入った
その途端
左のふくらはぎに何か
まとわりつくような違和感を覚え
蚊か蛾が来たかと身をよじって平手で払い
歩き出せばまだ感じる
振り向いて膝を曲げても蛾も蚊もおらず
かゆくもないので歩き出す
何か、長い髪の一本か
蜘蛛
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