海の家/peau
a,
波打ち際にしゃがみこんで
砂浜にいくつも円を描く
白いスカートの裾は
潮にひたひた濡れて揺れて
手の甲に透けた
青い筋がきゅっと強張る
最初の晩から此処へ来て
明日には帰る
きっと帰れる
あと少し
生まれない家族を洗い流したら
愛を知らない少女に戻っておやすみ
b,
繋いだ手を放して駆けてゆく
砂浜の先の緩やかな丘まで
何にも縛られない無邪気さは
すべての価値を無まで戻して
それから静かに紡いでゆく
丘の上のわずかな野ばらを
手折り集めて
c,
沈む太陽に焦がれて
赤く染まった爪先を
心臓といっしょに投げ入れる
暖炉に蒔をくべるように
深い波間の
暗い夕暮れ
眼を閉じるよりもっと
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